山田稔明『新しい青の時代』限定アナログ盤

活動報告

同い年リサーチ

2018-06-25

このクラウドファンディングも残り5日となりました。7月になると新しい季節です。『新しい青の時代』リリース当時2013年にaalto coffee庄野雄治氏主宰のZINEのために書いた文章を下記に転載したいと思います。僕は今年で45歳になりますが、このアルバムを作っていたのは37歳から39歳の間でした。自分の三十代を代表する1枚、四十代を代表するやつにそろそろ着手しなければなりません。 ************* いつも旅の途中 by 山田稔明 ************* 昔は短絡的で陳腐な言い方だと思っていたのだけれど、「人生とは長い旅のようなものだ」と最近あらためて、心からそう思うようになってきた。距離の移動ではなく時間の移動も旅なのだと感じるようになった。作詞作曲をしてステージで歌って何年かに1枚レコードを作ってまたそれを届ける音楽の旅に出るということを生業にしているので、それはメタファーではなくなってきた。 旅には先人がいるものだ。旅路には誰かがつけた轍(わだち)のあとというものがある。僕は今年(2013年)三年ぶりに新しいレコードを完成させた。『新しい青の時代』というのがそのタイトルなのだけど、僕は齢39歳(当時)でこのアルバムを完成させた。作品ができあがるといつも決まって調べ物をすることになっている。それは、自分と同じ年のときに偉大な音楽の先人たちが何を成していたか、ということだ。 たとえばボブ・ディラン、彼が39歳だった1980年には『Saved』という、いわゆる“キリスト教三部作”の第二作目でユダヤ教からキリスト教に改宗して精神世界の深みを漂っている最中。たとえばポール・サイモン、彼も39歳だった1980年には『One Trick Pony』という映画とそれに伴うサウンドトラックを発表、映画は酷評され失敗作となり、歴史的名盤『Graceland』まではあと六年かかる。40歳で死んでしまうジョン・レノンは子育てをしながら最後のアルバムを作っていた。 大ヒット作『Born in the USA』に続く作品としてブルース・スプリングスティーンは1987年に『Tunnel of Love』という、とても地味で内省的なアルバムで愛の苦悩で抜け出せないトンネルの闇を歌っている。R.E.M.のマイケル・スタイプは1999年頃、不動のはずだったメンバーが欠け『Up』そして続く『Reveal』で方向を模索していた。 山下達郎は『アルチザン』と『シーズンズ・グリーティング』、佐野元春は『サークル』と『フルーツ』のあいだの季節を過ごし、小沢健二は『毎日の環境学』というインストゥルメンタル作品を作り、言葉を語ることをしなかった。文学に目を移すと、村上春樹は39歳の頃に『ノルウェイの森』を上梓した。主人公のワタナベは物語の始まりで37歳なので、これは僕が新作『新しい青の時代』を録音し始めた歳とも符合する。 この“同い年リサーチ”はいつも僕の心を鼓舞する。まだまだこれからだ、という気分にもなるし、もっともっとと自分を追い込むことにもなる。僕は人生という旅のなかで偉大な先輩たちが記した地図を眺めながら風向きを読み、自分自身の地図を作っているところ。辿り着く場所はどこでもよくて、重要なのはその過程で見る風景だ。これから先の旅路をわくわくしながら今日も旅先で僕は歌を歌うのだ。(山田稔明)